革靴を好きになると一度は挑戦したい「ポリッシュを使った鏡面磨き」ですが、初心者の方にとって鏡面磨きの難易度はかなり高い。
せっかくポリッシュを用意しいざ試してみると「全然光らない…」、そこで諦めてしまってはもったいないので今回は鏡面磨きに挑戦してみたが失敗してしまった方に向けた記事になっています。
「練習あるのみだろぉぉぉ!!」と根性論を振りかざす人もいますが、ただ闇雲に練習してもやはり光らないものは光らないのです。
大事なのは根性よりも原理を理解することです。
「なぜ革靴がポリッシュによりテカテカに輝くのか」というシンプルな疑問を今回は解決し、初心者の方でも鏡面磨きができるようサポートしていきますので最後までご覧下さい!
【実験】ポリッシュを使った鏡面磨きの原理
今回はポリッシュを使った鏡面磨きの原理を私が拡大鏡で撮った写真を使いご説明します。
実際に写真を見ていただくことでよく分かると思います!
では見てみましょう!
革には毛穴がある
まず牛革スムースの表面を拡大鏡で見るとこのように毛穴が見えます。
人間と同じ皮膚なので同じですね。
この毛穴ってまるで人間の小鼻の毛穴に似ていませんか?
人間も毛穴を隠すとメイクが綺麗に見えるんですよ。
このポツポツが鏡面磨きをする上で重要になります。
拡大鏡で見ると毛穴がたくさんありますが引いて見るとよくある普通の革ですね。
実験のため8cm×8cmにカットしています。
ポリッシュを塗る前に下地を作る
まずはサフィールのレザーバームローションで下地を作ります。
サフィールのレザーバームローションにはミンクオイルが入っているため保革力が高くしっとりします。
また磨けば艶も出るためこれ一本で基本的なお手入れができることも特徴の一つです。
鏡面磨きで欠かせないポリッシュを塗る
次にポリッシュを塗っていきます。
今回使用しているポリッシュはサフィールノワールのビーズワックスポリッシュです。
サフィールのビーズワックスポリッシュは最初は柔らかいためドライワックスにしたものと柔らかいタイプを2種類用意するとやりやすいです。
サフィールのビーズワックスポリッシュを塗るとこんな感じになります。
鏡面磨きで艶々にするためには塗るだけではなく水を使っていきます。
私は水よりもアルコールが混ざったものの方が綺麗に早く仕上がるためそちらを使います。
ポリッシュを塗った部分を拡大鏡で見てみると…
毛穴が少しだけ埋まっています!!!
凹凸をなくすようにポリッシュを塗っていきます。
写真を見ると溝にポリッシュが入っているのが分かると思いますが、溝を埋めるというのがもう一つの鏡面磨きのポイントになります。
ポリッシュを重ね塗りしていく
何度もポリッシュを塗り重ねると最初にあった毛穴が隠れています!
ポリッシュでしっかりベースを作ったあと水をほんの少し垂らしクロスで伸ばしていきます。
するとポリッシュがどんどん固くなっていきます。
ツルツルとした感覚が指に伝わり始めたら力を入れてポリッシュを押し込んでいきます。
ポリッシュをかける前と後の革の表面です。
ポリッシュを塗ることで毛穴が埋まりツルッとしていることが分かります。
ここまで毛穴が埋まるとハッキリとした艶が出て水も浸透しにくくなります。
結論:革の表面にある毛穴の凹凸をポリッシュにより埋めることで表面が平になりツルッとし艶がでる。
鏡面磨きの基本は毛穴を埋めるというベース作りから始め、水の使い方、ポリッシュの硬さなど調整することにより全ての条件の歯車が合うことで鏡のような艶が生まれる。
初心者によくあるポリッシュを使った鏡面磨きの失敗例
鏡面磨きが失敗するとき、その原因が分かれば修正しやすいですよね。
そこで今回は失敗事例をまとめました。
失敗しても諦めずに修正を繰り返すことで成功しますので、「なぜ失敗したのか」を考え何度もやってみましょう。
①水が多すぎる
「丁度いい加減が分からない」という声が聞こえてきそうですが、水はポンと1滴くらいでも最初はいいのです。
いきなり大胆に数滴落とすと前の状態に戻れなくなることもあります。
また水が多過ぎるとポリッシュを塗った部分に穴空いたりします。
穴が空いてしまうとその部分を補修するのは厄介になるので注意が必要です。
②ポリッシュの量が少なすぎる
これが一番多い失敗かもしれませんが、ポリッシュが少な過ぎた場合水を垂らすと染み込んでシミになったり、革の下に水が溜まりなかなか乾燥せずそのまま鏡面磨きを続行することができないこともあります。
③ポリッシュが乾燥していない
鏡面磨きとはポリッシュの状態、室温、湿度に作業時間などが左右されるのでその時々の環境に合わせることが大事です。
驚くかもしれませんが高温多湿はやりにくいです。
ポリッシュが乾かないというのはいつまでもヌルッとした状態のままで硬質な膜を張っていないため艶も出ません。
また乾いていないポリッシュの上から擦ることにより塗ったポリッシュが剥がれてしまうこともあります。
④ポリッシュが均一に伸ばされていない
靴磨きをする際、鏡面磨き以外でも“均一に伸ばす”というのは鍵になります。
クリームやポリッシュを塗る際に偏りがでると仕上がりに響きます。
またポリッシュの場合は重ね塗りをするため厚みに差が出て薄いところは艶があまりでなく艶があるところの差がハッキリ出てしまいます。
それがグラデーションなら良いのですがつま先の先端に艶の差があると綺麗には見えません。
⑤ポリッシュが柔らか過ぎる
「買ってすぐ開けて使うのが何が悪いのか」と思っている皆様にお伝えしたいことがあります!
あなたが悪いわけではなく、ポリッシュは好みに調整する必要があるケア用品なので買ったらまずあなたの好みに調整して下さい!!
柔らかいポリッシュは本当に使いにくいものです。そのため少しの間ポリッシュの蓋を開けたままにし乾燥させることで硬くなります。
好みがあるためポリッシュはどれくらいがベストという基準はありません。何度も試し使いやすい硬さを見つけて下さい。
ポリッシュをかけた後、仕上げ剤として使いたいのはサフィールのミラーグロス。
誰が使っても艶がでる優れものです。
サフィールのビーズワックスポリッシュよりも固まると硬くなり、ねっとりとしたビーズワックスポリッシュと比べると仕上げで使うのが適当だと思われます。
⑥革靴が新品
意外かもしれませんが、新品の革靴は鏡面磨きがしにくいです。
なかなか艶が出なかったり、思ったような深い光沢にならないことがあります。
そのような時は、クリームをしっかり入れて保革するとだいぶやりやすくなります。
初心者のためのポリッシュを使った鏡面磨きのやり方
詳しい鏡面磨きのやり方は下のリンクを見ていただきたいのですが、ここでは簡単に鏡面磨きのやり方をご説明します。
とはいっても鏡面磨きのやり方は一つではないため、靴磨きの職人それぞれのやり方があるため「絶対このやり方!」というものがありません。
そのため色々な方に教えてもらうとやり方が全然違うため混乱して結局鏡面磨きができないという人を何人も見ました。
私がこのようなことを言うのはおこがましいのですが、「この人のやり方がやりやすそうだ」と思ったらそのやり方を続けて欲しいのです。
「毛穴を埋める」という基本を意識しやってみましょう!
クリーナーを使い古いクリームなどを落とします。
ここがかなり大事で綺麗に仕上げるためには汚れなどをきちんと落としておくことで透明感のある艶が出ますので、下地作りは手を抜くことなく行って下さい。
革靴のアッパーをクリーナーで綺麗にしたらしっかり保革をしましょう。
クリーナーを使った後は少なからず油分も落ちています。見た目で分かりますが、パサパサです。
色褪せている場合はクリームを入れます。
この時、色はニュートラルではなく革靴の色と似寄りの色を選びましょう。
私はサフィールノワールのクレム1925を使用します。
油性クリームで、クレムは発色がよく色も定着しやすいです。
しっかりと満遍なくブラッシングをします。
ブラッシングにより靴クリームの色は革に定着しますので丹念にブラッシングをすることをおすすめします。
サフィールの豚毛ブラシは持ちやすいサイズの豚毛100%のブラシです。
リーズナブルな価格のため色ごと数本用意することをおすすめします。
ポリッシュを塗り下地を作ります。
この時毛穴を埋めることを意識してしっかりと押し込んでいきます。
何度か重ね塗りをし光沢が出るまで続けます。
最後に水研ぎをしてさらにポリッシュを押し込みます。
どこまで艶を出すかはあなたのセンス!
私は革靴の先端だけ光らせてキャップトゥの半分くらいからグラデーションをかけるタイプです。
本当に鏡面磨きってセンスが大事です。
もっともっと詳しく知りたい方は下のリンクから鏡面磨きのやり方をご覧下さい。
裏技アイテムも紹介しています!
ポリッシュを使った鏡面磨きのメリットとデメリットについて
こんなに綺麗な鏡面磨きですがデメリットの存在を忘れてはいけません。
靴磨きは綺麗になる反面必ずデメリットが伴います。デメリットに注意しながらメリットを引き立てることを考えましょう。
鏡面磨きのメリット
ポリッシュをかけた状態の革靴は毛穴が埋まっているため水を弾くようになります。
そのため防水とまではいきませんが、撥水の効果はあります。
あくまでポリッシュによる撥水のため、防水スプレーのような撥水はしませんが汚れが付着しにくくなったりとかなりのメリットがあります。
もう一つは当然ながら「艶」があるためドレッシーに見え結婚式など晴れやかな場面で履くには適しています。
少しカジュアルなドレスも鏡面磨きをすることでワンランクドレッシーになります。
鏡面磨きのデメリット
デメリットは何といっても「毛穴を塞ぐことにより通気性が悪くなる」という点です。
一番最初に革の毛穴を拡大した写真を用いてご説明しましたが、毛穴にポリッシュを詰めているので鏡面磨きをした革靴は通気性が悪くなります。
鏡面磨きが「厚化粧」と揶揄される理由はここにあります。
毛穴を隠すことで綺麗に見える化粧、毛穴を埋めることで凹凸がなくなり艶がでる鏡面磨きは大変似ておりそのデメリットも同じといえます。
時々しっかり落としてスッピンに戻ることが必要です。
通気性が悪くなるとどうなるかというと吟面が傷んだり、革の劣化が進んでいきます。
私の革靴も鏡面磨き後半年ほど放置していたら革にシワが入り傷んできました。その姿は大変可哀想なのですぐに落としてあげましたが、そのままにしておいたらもっと傷んでしまったことでしょう。
普段の革靴を鏡面磨きしドレスアップさせることに意味がある
今回「鏡面磨きの原理」からお話ししました。
やはりこの「鏡面磨きの原理」を理解することで格段にその技術は上手くなります。
これは「なぜ艶がでるのか」という根本的な部分を理解することでポリッシュの使い方や、より短時間でこなす条件というものが見えてくるからです。
「鏡面磨きの原理」を理解できれば鏡面磨きは自分なりのアレンジも可能です。
またデメリットについてもお話ししましたが鏡面磨きが「悪」というわけではなく“鏡面磨きはあくまでおしゃれ着を着る”というような一時的なものだと思っていただければと思います。
つまり年中24時間365日おしゃれ着を着ている方がいないように目的があっておしゃれ着を着るということと同じで、鏡面磨きも24時間365日ではなく華やかな舞台で演出するためのお化粧です。そのため華やかな舞台が終われば落とさなければいけません。
また鏡面磨きができるようになると面白くワークブーツまで鏡面磨きをしている方を時々見受けられますが、鏡面磨きをすることに意味がある革靴はやはりドレスのためワークブーツを鏡面磨きするというのは違和感があります。
ワークブーツを鏡面磨きするというのはワークブーツの良さを殺すような行為なので私は好みません。
革靴を愛する皆様はその革靴を最大限輝かせるために特徴や背景を考え鏡面磨きをして下さいね。
これは強制ではありませんが、革靴の歴史を考えると何が一番恰好よく見えるか分かると思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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