私、HIROsophyは約10年あまり紳士靴に携わっており、靴磨き、靴修理、靴の販売をしておりました。この10年をどう捉えるかは自分次第なのですが、私としては「革靴って本当に奥が深くて楽しいな」というのが本音です。現在は紳士靴の販売員ですが、職人だった頃新しい自分にも気付きました。それは、私は「感覚的な職人」ということです。職人は二通りの人間がいると思っています。それは「感覚重視の人間」か「理屈で考える職人」かです。
職人が成すことは精密機械のように正確です。しかし、その正確な作業は一体なぜできるのでしょうか?もちろん鍛錬の結果でもありますし、その職人はとことんその作業を愛しているから精密機械のような作業ができるのですが、多分どの職人も人にその正確に行う術を伝えることは苦手な気がします。私も靴磨きを愛していますが若干感覚的過ぎるあまり1回目の記事では上手く表現できていなかったので、再度具体性を持ってこちらの記事で靴磨きを紹介したいと思います。
革靴の素材を見分けよう
革靴には大別して「スムースレザー」と「起毛」があり、それぞれお手入れの方法は異なります。まずお手入れをする前にどちらなのかを見分けなければいけないのですが、誰もがすぐに見分けることはできますのでご安心を。
ただ合成皮革と天然皮革の見分けについては昨今かなり合成皮革が進化をし難しくなってきていますので、ここでは天然皮革の場合をご説明します。
①スムースレザー
シュリンクレザーやクロコ型押しレザーはスムースレザーとは言わず、動物の種類は関係なく表面が滑らかなレザーのことを指します。スムースレザーは革靴以外にも鞄やベルトにも使われます。
②起毛(スエード・ベロア・ヌバック)
起毛とは鞣した革の裏側をサンドペーパーなどでバフさせて起毛させたものです。
スエードとベロアは裏革、ヌバックは表革をバフさせたものです。
③ガラスレザー
成牛革を鞣しガラス板などに貼り付け乾燥、塗装仕上げをしたものです。REGALはガラスレザーで有名なブランドです。ガラスレザーのお手入れ方法はスムースレザーと変わりませんが、クリームを吸い込まない素材のためクリームの量には注意したほうがよいです。
革靴スムースレザーのお手入れをご紹介!
今回私が磨きますのは「Dr.Martens(ドクターマーチン)」の1461です。
この1461は1961年4月1日に誕生しこの名前がつけられました。ドクターマーチンといえばこの3ホールの1461を思い浮かべる人は多いと思います。元はといえば耐久性のある労働者の靴として販売されていましたが時代の流れと共に政治デモを行う学生達の間で人気となり、ファッションアイテムとなったのです。パンクロッカーがドクターマーチンを履いている姿を見かけるのもその理由からです。
私はこの革靴をスニーカーのように扱い、雨の日用にしているため本当に汚れていました。今回そんな汚い私のドクターマーチンを綺麗にしてあげようと思ったのです。ドクターマーチンのレザーはガラスレザーなので「靴磨きには不向き!」って思う方も多いとは思いますが、元靴磨き職人としてこんなに汚い革靴が玄関にあること自体緊急事態なので、早速磨きたいと思います!
、とその前に一つだけ忘れていたことがありました。靴磨きをする前に一番大切なことはなんだと思いますか?意外かもしれませんが「ゴール」を決めることです。「ゴール」とはこの革靴をどんな感じに仕上げるのかという着地点です。これを決めずに磨くと使う靴クリームも選べず、効率が悪いです。そのためまず「ゴール」を決めてからスタートします!
このドクターマーチンはかなり汚れて見栄えも悪いため艶々にしようと思います!
職人ならではの裏技も教えますので、お見逃しなく!!
①ホースヘアブラシ(馬毛)を使い埃を払う
爪先に複数の傷が見えますが傷は靴磨きでは消えません。しかし光沢を出し見栄えを良くすることで気にならなくなります。偶に靴磨きで傷が直ると思っている方がいらっしゃいますが、直りません。傷を完全に直すというのは靴磨きではなく「傷補修」という項目になり、こちらはサンドペーパーを使い表面を削ってならすことになります。サンドペーパーを使わなくてもフィニッシャーという靴修理をする時に使う機械があれば素早く削ることができます。
このように汚い革靴をインターネット上に公開するのも憚れますが、ここは恥をしのいでお見せします!!これは磨く前の写真です。何なのか分からない白い液体がついていたり、どう見ても触りたくないほど汚い私の革靴です。ドクターマーチンをこのままにしておくとここから菌が繁殖しそうで怖いので綺麗にしていきます!
ホースヘアブラシ(馬毛)を使い全体的に埃を落としていきます。靴というのは部品の集合体なため入り組んでいるところが多くしっかりとホースヘアブラシで掻き出してあげなくてはいけません。念入りにブラッシングから始めましょう!
②クリーナーを使い革靴のしつこい汚れを除去
私が今回使うのはSAPHIR(サフィール)のレノマットリムーバーです。SAPHIR信者の私としてはこの超強力リムーバーが大好きです。このレノマットリムーバーはカビも落とすほどに強力なため取り扱い注意です。というのは、強力が故に擦り過ぎると革の表面を荒らします。吟付きの場合は吟面が剥げるのでゴシゴシやらないようにして下さいね。今回は白い液体のような気持ち悪いものも付着しているドクターマーチンなので、これでしっかりと落としていきます。
このようにクロスにレノマットリムーバーをとり、ソールまで綺麗にします。
このドクターマーチンはユニットソールでヒールが独立していないので全体的にこのレノマットリムーバーで汚れを落としていきます。
これで完全に汚れを落としました。持ちにくかったのでこの時シューキーパーを入れました。
③ペネトレイトブラシを使い靴クリームを塗布!
サフィール(SAPHIR)のビーズワックスファインクリームを使います!ちょっと状態が悪いのが気になりますが、これで磨いていきます。
靴クリームの蓋を使いペネトレイトブラシ(アプライブラシ)についた靴クリームをならします。ペネトレイトブラシ(アプライブラシ)に偏って靴クリームがついていると色群の原因にもなります。今回は黒色なので気にすることもないですが、茶色などの場合は注意が必要です。
かなや刷子の豚毛(ブリストルブラシ)を使い磨きます。このかなや刷子の豚毛はおろしたばかりのためまだ育っていないですが、これからグングン成長するはずです!
④アクセントにポリッシュを薄塗り!!
こちらはサフィールのポリッシュです。いい感じに乾燥させてます。この乾燥の度合いは人により違いますので、私はこれくらいが使いやすいです。ここには出ていませんが、他にも乾燥の度合いが違うポリッシュを幾つか用意しています。それは、下地と分けるために自分の使いやすいポリッシュを作っています。私は、下地は堅いほうがよいので下地の上から塗るポリッシュは若干下地よりも柔らかいものを使います。
ポリッシュはいきなりクロスにとるのではなく、クロスを一度湿らせてからポリッシュをつけます。このポリッシュを使い全体的に艶感を出していきます。この時のポリッシュはハイシャイン(鏡面磨き)をするためではないので薄塗りで構いません。
⑤ホースヘアブラシ(馬毛)で磨き上げ!
豚毛で全体的に馴染ませた後に、このホースヘアブラシ(馬毛)を使いさらに艶を出していきます。
これは結構驚く方がいるかもしれませんが、これは埃を払った時のホースヘアブラシ(馬毛)ではなく磨くための馬毛ブラシです。私が艶出しで使っているホースヘアブラシ(馬毛ブラシ)はREDWING純正のホースヘアブラシです!毛足が長く柔らかいので艶出しで使用しています。豚毛ブラシ(ブリストルブラシ)の後にこのホースヘアブラシを使うことで豚毛ブラシでは出ないテカテカした艶がもっと出ます。
ホースヘアブラシで磨いた表面はこのような艶になります。ガラスレザーは靴クリームが浸透しないためつけ過ぎると靴クリームが表面に残ってしまいますので、念入りにブラッシングをして頂くとよいです。
⑥仕上げブラシを使いもっと艶感を出す!
仕上げブラシに少しだけ水をつけて更にブラッシングをします。この時水はつけ過ぎないようにして下さい。心配な方は、スプレーでブラシに吹く方がつけ過ぎないので安心です。
この時のブラッシングの方法ですが、毛先が革靴のアッパーに触れるか触れないかくらいの感覚で磨くことがコツです。しっかり仕上げブラシを当て過ぎるのは良くないです。
シューレースを通して出来上がりです!最初に決めた「ゴール」を達成し、艶々になりました!
革靴も早期発見早期治療!
今回はスムースレザーのお手入れ方法を画像を入れて説明させて頂きましたが、いかがだったでしょうか?革靴も人間と同じで早期発見早期治療が一番です。汚れ過ぎた革靴は完全に汚れが落とせない可能性もありますし、お手入れしていない革靴は傷みが早いです。是非ともこまめにお手入れをしてあげ、早い段階で革靴の傷みに気付き治療してあげて下さい。そしてまた沢山あなたと行動を共にし新しい景色を革靴にも見せてあげて下さいね!革靴を愛でよう!では、また次回この場所で!
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